60年後の森のために、今日、木を植える。下川町「森づくり」の話
面積の9割が森。その森を、町が「経営」する
北海道下川町。人口約2,800人のこの町は、総面積の約9割を森林が占める。町はこの森を、ただ守るのではなく「植える・育てる・伐る・また植える」という循環のなかで経営している。2017年には第1回ジャパンSDGsアワードの大賞(内閣総理大臣賞)を受賞した取り組みだ。約4,700ヘクタールの町有林を管理する森づくり専門員に、話を聞いた。
1953年、8,800万円の決断
起点は1953年(昭和28年)。町の予算が1億円規模だったころ、下川町は8,800万円を投じて国有林を購入した。予算のほとんどを森に賭ける決断だった。木を植え、育て、伐り、また植える。この「循環型森林経営」を、60年かけて一巡させる。そして2014年、最初の60年サイクルがちょうど一周した。先人が植えた木を現代の下川町が収穫し、いま森づくりは二周目に入っている。

今日植える木が伐られるのは、約60年後。植え付けは、次の世代へのバトンだ。
「成長を想像するのが、楽しみ」
育てているのは主にトドマツとカラマツ。植えてから伐るまで約60年かかる。つまり、いま植える木を伐るのは次の世代だ。自分が植えた木を、自分では伐れない。それでも、専門員の言葉は明るかった。
「楽しみなんです。植えた木が、これからどんなふうに成長していくのか。それを想像するのが楽しい」
60年という途方もない時間軸を、重荷ではなく「楽しみ」として引き受けていた。
マイナス30度の森で、手をかけ続ける
豊かな森は、植えれば自然にできあがるものではない。夏は苗の周りの下草を刈り、育成の途中では込み合った木を間引く「間伐」を行う。冬はマイナス30度まで冷え込む。一年を通して、森には手入れが欠かせない。
「一番の違いは、太陽の光が地面に届くかどうかです。光が届く森は草が生えて、動物たちにとっても住みやすい環境になる」
一律に管理するのではなく、その土地に合った環境へ整える。それが森づくり専門員の仕事だ。

間伐前。木が込み合い、地面まで光が届きにくい(トドマツ55年生)。

間伐後。光が差し込み、森が呼吸を始める。
一本の木を、余さず使い切る
下川町の森づくりが際立つのは、木を「育てる」だけでなく「使い切る」ところにある。まっすぐな幹は建材や家具に、細い木は土木用の杭に、端材や木くずは木質バイオマスの燃料に、枝葉はトドマツの精油になる。燃料は町の暖房や給湯を支え、捨てるしかなかった枝葉はアロマや化粧品に生まれ変わる。育てる循環と、使い切る循環。この二重の循環こそ、「ゼロエミッション」と評価される理由だ。
寄付1万円が、トドマツ33本になる
この森づくりを町の外から支えるのが、ふるさと納税だ。下川町は使い道の一つに「森林(もり)づくり事業」を設け、寄付は町有林の植林や整備に直接使われる。寄付1万円で、トドマツならおよそ33本、カラマツならおよそ72本の苗木を植えられる。その木が育つのは60年後。遠くにいる誰かが、次の世代のための森を一緒につくっている。
「山を身近に感じてくれたり、木に関心を持ってくれたりすると、本当にうれしい。注目してもらえることは、現場で働く私たちのやりがいにもなるんです」

植えてから5年目のトドマツ。寄付1万円で、およそ33本を植えられる。
森づくりは、世代から世代へのバトン
いまある豊かな森は、60年以上前の人たちが育ててくれたもの。下川町がいま植えている木は、60年後の人たちのためのものだ。自分では収穫を見られないかもしれない木を、それでも「成長を想像するのが楽しい」と言って植える。その思いの積み重ねが、下川町の森を形づくっている。そして、あなたの一本の苗木も、その森の一部になる。