農家として、地域の一員として、学び考え挑戦し続ける|鬼頭めぐみさん
移住してきた人にとって、地元の人たちは地域の特徴や暮らしの知恵を授けてくれる先生のよう。しかし、お互いのコミュニティの温度感や関心はさまざま。どう歩み寄っていいのか分からない人も多く、結果的に移住者同士で固まったり、地元の方と交流がなかったりする人たちもいます。
めぐさんこと鬼頭めぐみさんは、農家の経験がゼロの状態からフルーツトマト農家として新たな一歩を下川町で踏み出しました。試行錯誤を重ねる彼女の周りには、移住者も地元の人も垣根なく集まってきます。それはめぐさん自身が一貫した信念と素直な姿勢で周囲に接しているからだと、感じさせるお話が聞けました。
Profile 鬼頭めぐみ|千葉県出身|2022年移住

創造してこそ人生はおもしろい
関東で暮らしている間、夫婦でそれぞれ会社を経営して仕事に熱中していたのですが、2020年に新型コロナウイルスの蔓延をきっかけに、ふと手が止まる瞬間がありました。周りを見渡すと、自分の仕事は止まっても、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちが従事するような緊急時でも止まらない仕事もあるのだと実感しました。
コロナをきっかけに、夫婦で「ゼロからイチを作る仕事をしたい。創造できる場所に行かないと人生おもしろくならないんじゃないか」と話して。中でも農業に興味がわき、当時暮らしていた街を出て自然の近い環境に引っ越そうと考え始めたんです。
関東から出たことがなかったから近隣の市町村から探し始め、都内で開催されている農業関連のイベントなどに参加しているうち、下川町の移住窓口からメールが届きました。実は2019年くらいに、東京国際フォーラムで行われた移住イベントに参加していて、そこで下川町のブースにも立ち寄り、メルマガ登録をしていたんです。当時は移住するためというより二拠点できないか考えていて、情報収集のためにイベントに足を運んでいました。
でもコロナ禍でメールが届いたのをきっかけに、改めて下川町について調べ直しました。すると就農前の研修のために施設や準備期間などの受け入れ体制がしっかり用意されていることを知りました。運が良ければ農家になれるのではなく、カリキュラムがある環境に安心感を覚えました。
それに、問い合わせた当初から親身になって話を聞いてくれたことも下川町に決めた理由の一つです。子どもが3人いるのですが、まだ移住するか決めていない頃から学校のことを教えてくれたり、制服のサイズまで聞かれたり(笑)。でも移住してくる私たちに対する配慮を感じて「ここなら住める」と思ったんです。学校の上履き一つとっても、メールでマメに対応してくれて、とても心強かったです。
理想と現実を受け止め、できることに挑戦

今年(2026年4月当時)で就農2年目に入ります。3年間の農業研修が終わり、第三者継承にて農地とハウスを引き継ぎましたが機械の故障やら天候不順やら、予想していなかったことも多くあり大変でしたが、周りの先輩農家さんがすぐに駆けつけて助けてくれました。もともとサラリーマンだったから、分からないこともまだまだたくさんあります。でも、1年の収量目標は達成できました。
下川町に惹かれた理由の一つは、町が環境未来都市やSDGs未来都市に選定されていたということです。自治体として長年循環型森林経営を行なっていたり、町民有志のグループ「下川町ジャストラ研究会」で持続可能な産業や暮らしを実現するために勉強会が行われていたり、共感できる価値観を持つ人がたくさんいるという印象もありました。
農家になると決めてから、自分自身も化石燃料を使わないエネルギーを優先したり、自然の流れを主軸にした農業ができないかと考えていました。けれど実際に農家になって、既存の仕組みや収量の関係を学ぶ中で、すべての理想を実現できるわけではないし、既存のやり方は農業の土台を構築するために必要な部分もあるのだと勉強になりました。

一方で、移住当時に思い描いていたことの中でも、できそうなことややってみたいことはたくさんあります。例えば、廃棄されるトマトに何か付加価値をつけて捨てられる農作物を減らすことはできないかと考えています。今は規格外のトマトや見た目が悪くても新鮮で美味しいトマトを町内の食材のはかり売りと喫茶「月と野菜」さんに卸していますが、加工品にできないかとアイディアを考え中です。
農業でお世話になっている分の恩返しを
農家としての研修期間が終わったので、町の活動にもまた関わっていきたいと思っています。移住してきてからすぐ下川消費者協会が運営している「ばくりっこ」というお店があるのですが、農作業が落ち着く冬の間は店番のお手伝いに行っています。地元のお母さんたちから「昔はここに映画館があった」とか「漬物はこう漬けると美味しい」とか、いろんなことを教わるのが楽しいんです。農業に関わる人たちだけと知り合うのではなく、いろんな知識や経験に触れられるので、私にとってはすごく良い時間になっています。
子どもたちも、もともと住んでいた埼玉を懐かしく思うこともあるようですが、下川での暮らしを楽しんでいるように見えます。子どもたちの習い事や進学の選択肢としては、もちろん都会に比べれば数は限られますし、隣町まで送り迎えをするにも時間がかかるのは事実です。ただ、今はネットもあるし、一見すると都会の方が選択肢が多いように見えますが、実際に没頭したり集中したりして取り組めるものが多くないという点では、都会も田舎も同じだと思います。だから地方へ行くことが機会喪失になるとは、あまり感じていません。

町内で新しいことにチャレンジしたい人に伴走するプログラム「ボヤージしもかわ」という取り組みがあり、私も参加しています。町内には広い土地や古くてもまだまだ使えそうな施設があります。既存の資源を使って下川らしいやり方で、何かできないかなと。
町の人口も子どもの数も減っていますが「自分たちの子どもたちだけが満足できればそれで良い」というわけではないし「仕方ないよね」で終わらせたくない。とはいえ、子どもたちに私たちの価値観を押し付けてはいけないと思います。地域の子どもたちが何を望んでいるのかを理解して、目線を合わせて話し合って作っていきたい。農業でいろいろな人にお世話になっている分、暮らしの中で足りないものを作ることで、町の人たちや地域の未来に還元していきたいと思っています。
鬼頭さんの一日
仕事の日
| 時刻 | |
|---|---|
| 5:00 | 起床、圃場へ。トマトの栽培管理 |
| 7:00 | 子どもたち起こす |
| 8:30 | 圃場へ仕事 |
| 12:00 | お昼休憩 |
| 13:30 | 暗くなるまで圃場で仕事 |
| 18:00 | 子どもたちを隣町のバスケットボールクラブへ送る |
| 20:30 | 名寄へお迎えへ |
| 21:30 | お風呂、洗濯 |
| 23:00 | 就寝 |
休みの日
| 時刻 | |
|---|---|
| 7:30 | 起床 |
| 8:30 | 圃場へ |
| 16:00 | 帰宅、ごはん作る |
| 17:00 | 子どもたちと夕食 |
| 18:00 | バスケットボールの練習のため士別市へ |
| 21:00 | バスケ終了 |
| 21:30 | アイスを食べながら、帰宅 |
| 22:00 | 洗濯など家事 |
| 23:00 | 就寝 |
Photo: Yujiro Tada Text: Misaki Tachibana